ジャズの中でギターの存在って、考えてみると結構レアなんですよね。フュージョンやクロスオーバーが一般的になる以前では、唯一電気増幅させる楽器ですから。エフェクターなどで歪みを加えるロック系と異なり、クリーントーンかそれに近い最低限のエフェクトで奏でられる粒立ちのよい音色は、何か心を捉えて離さない魅力があります。
前にも紹介したケニー・バレルもそうですが、粒立ちのよさで言えば今回ご紹介するグラント・グリーンも大変魅力のある音色を奏でてくれます。他のジャズギタリストと決定的に異なる点はシングルトーン(単音)をメインにプレイする事ですね。なので一音一音を大切に演奏している感が伝わってくるのです。
さてブルーノートを代表するアーティストの一人でもあるグリーン、作品も数多くリリースしていますけど代表作と言えばこれを挙げたいと思います。
「アイドル・モーメンツ」1965年の作品です。

メンバーは…
- グラント・グリーン(gt)
- ジョー・ヘンダーソン(ts)
- デューク・ピアソン(p)
- ボビー・ハッチャーソン(vibe)
- ボブ・クランショウ(b)
- アル・ヘアウッド(dr)
こうやって書いていて、テナーがジョー・ヘンダーソンだった事に気づきました。ずっとスタンリー・タレンタインかと勘違いしていたんです。いやお恥ずかしい。全体の編成はヴィブラフォンもあって、6人とヴァリエーションに富んでいますね。
曲目は…
SideA
1. Idle Moments
2. Jean de Fleur
SideB
3. Django
4. Nomad
はい、アルバムとしては4曲と少ないんです。まずは一曲目、タイトル曲でもある「アイドル・モーメンツ」。ピアノも演奏しているデューク・ピアソンの作品です。曲名通り、ゆったりした時間が流れるような渋い曲なんですが、これが大好き。15分近くもあって、強弱もそれほど無いんですが何故か飽きません。グリーンもほぼ同じフレーズを何回も繰り返すんですが、これがまた最高に気持ちが良い。そしてソロの受け渡しが行われ、ジョー・ヘンダーソンの吹くテナーがまた、渋いのですよ。ジョー・ヘンと言うともっと「モード調」のスタイルかと思っていましたが、この「ムード歌謡」とさえ言える、ある意味「らしくない」プレイもバッチリ決めています。だからタレンタインと間違えていたのかもしれないですね。また、ハッチャーソンのヴァイブもいつものクールな感じではなく、ほのかに温かみを感じるのです。
2曲目はグリーン自身の作曲。打って変わってアップテンポのナンバーで前の曲の超スローテンポからするとエラく速い印象を持ってしまいますね。オーソドックスなハードバップ、それぞれのソロも生き生きとしてライヴ映えしそうです。

レコードだとB面一曲目、ジャズファンにはお馴染みの名曲「ジャンゴ」です。MJQ(モダン・ジャズ・カルテット)の演奏で知られていますが、グリーンのヴァージョンではギターとサックスが加わっているわけで、分厚い音圧を感じます。原曲をそれ程崩してはいませんが、ピアノやヴァイブのパートをグリーンの粒立ちの良いギターで演奏されると何だかソウルフルに感じたりもします。そしてまたしてもハッチャーソンのヴァイブソロがミルト・ジャクソン(MJQ)に寄せているようにも聴こえます。それでもミルトに比べるとやっぱりクールですけどね。
ラストはピアソン作曲の「ノマド」。こちらは当時の「新主流派」だったヘンダーソンやハッチャーソンらしいプレイで、何だか「垢抜けた」演奏、曲調です。なかなか肝心のグリーンのソロが出てきませんが、5分過ぎくらいからこの「とろみのある」ギターが入ると一気にソウル風味が加わります。
このアルバム後もしばらく新主流派的なメンバーとの作品が続いていましたが、さらにその後は一気に「己の個性爆発」とも言えるソウル風味満点の作風になっていきます。そうした「コテコテ路線」も個人的には大好きですね。
とにかく個性的、唯一無二とも言える路線を確立したギタリストだと思います。テクニックよりも(無いと言っているわけではないですよ)音色と心地良さを重視したようなシングルトーンの「音」に浸らせてくれます。まずはこのアルバムの1曲目を目を閉じてまったりと聴いていただければ…


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