ジャズを聴くようになると、必ずこの単語が目に入ってくる事と思います。
「ブルーノート」
何だか素敵な響きを持つ単語はレコードのレーベル名で、現在も尚残っている老舗なんですね。
ジャズファンにとっては特別なレーベル、ブルーノート。それこそ名盤と言われるものの枚数はどれほどのものでしょうか。
このレーベルの特徴としては、前回紹介したビル・エヴァンスのような「雰囲気系」とは違ってとにかく「前に前に」押し寄せてくるような勢いのあるジャズなのです。そういうわけで、ピアノトリオのような編成は極端に少なくて必ずホーン系が絡む形が多くを占めます。これから紹介する「サイドワインダー」も然り、ラッパが2本(トランペット、テナーサックス)が入っています。
- リー・モーガン(tp)
- ジョー・ヘンダーソン(ts)
- バリー・ハリス(p)
- ボブ・クランショウ(b)
- ビリー・ヒギンス(dr)
5人なので「クインテット」ですね。リーダーであるリー・モーガンはキレのある力強いブロウが持ち味のトランペッター。リリースは1964年。50年代に隆盛を極めたモダンジャズも変換を迎えようとしていた時期になります。ポップス界でもビートルズが登場して大きな波が来ていました。そう、「ロックの一般化」です。これによって、ジャズも変わっていくんですね。ミュージシャン達もおそらくこの流れに大きく興味を持ったのではないでしょうか。
そういった流れの中で登場したのが「ジャズ・ロック」ということになります。それまでのジャズは4拍子が主体でしたが、ロックのエイトビートを取り入れた、8拍子のジャズが当時アツかった訳ですね。この「サイドワインダー」はその代表作とも言えるもので、タイトル曲はビルボードのホット100にもランクインしたそうです。
日本でも流行っていたのかはわかりませんが、この前までNHKで放映していた朝ドラ「カムカムエブリバディ」のジャズ演奏シーンでは、音楽担当氏のオリジナルではありますが思いっきり「サイドワインダー的な」曲が何度も演奏されていました。「当時」を表現したかったのでしょうね。何だか嬉しいシーンでした。
ジャズとロック(あるいはソウル)といったジャンルを超えた融合はその後も続いていきますし、そこからジャズ方面ではフュージョン、クロスオーバー、ソウルジャズといった分野が育ち、ロック方面ではスティーリー・ダンに代表されるジャジーなロックが生まれて行ったのです。
個人的にこの作品を推奨したくなったのは、レコードでモノラル盤を入手できてしまったから、という面もあります。オリジナルかどうかは分かりません(比較的安かったので)が、とにかくモノ盤は音が分厚い!濃い!太い!中央に集まった音が岩のような塊となって飛んできます。これは痛快ですよ。突進系トランペットのリーの逞しい咆哮が響き渡り、カッコいいったらありゃしない。CDやステレオ盤ではこのカタルシスは味わえない…かもしれませんが、この曲が持つ「ノリ」「グルーヴ」は普遍的だと思います。そうそう、ベースソロもイイんですよ〜がっちりと引き締まって滑舌の良いベースの鳴り方は、オーディオのチェックにもなりますよ。そしてそのソロが終わってテーマ(これもベースから始まります)に移る、ちょっとした間…ホント、これが絶妙!「溜めの美学」とでも言いましょうか。
リー・モーガンというトランペッターは18歳でデビューして「天才」と呼ばれ、この作品以前から第一人者でした。この「ブルーノート」レーベルの看板アーティストとも言えます。ところが、このアルバムは麻薬中毒に悩まされていた彼にとってのリハビリ作としての意味合いもあったのです。それもあってか、このタイトル曲「サイドワインダー」でもラスト付近のテーマ演奏では若干もたついてしまっています。でも、そこもまた当時の状況が窺い知ることも出来ていいですね。今だったら編集して直しちゃうんでしょうけど。
結局リーは麻薬から逃れることは出来なかったようです。そしてステージで妻に拳銃で撃たれて死ぬ、という壮絶な最期を迎えます。33歳。あまりにも早い死でしたが、15年というキャリアで作品数は数知れずあります。
これでリーのトランペットに触れて「良いね!」と思ったら、他にも色々出ているのでぜひ聴いてみてください。まだ身体が麻薬で弱っていない時代の作品から聴かれる、リーの力強くも洒脱さを感じさせるブロウは癖になりますよ。初期の「キャンディ」や「Vol.3」辺りがいいですね。
最後にこの「ブルーノート」レーベルのジャケット。まさに「ジャケ買い」したくなるカッコ良さなのですよ〜これでどれだけ買ってしまったことか…(笑)
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