前回までの内容は「長岡鉄男氏が我が家を訪問する」というものでした。ここからは「長岡先生と過ごした日」という趣になるでしょうか。本当に濃い1日だったんですよね。その興奮した様子が、この若き日の文章から立ち上ってくるかと思います。今回は長岡氏の運転手として、2軒の訪問先を回る話になります。

一本入る道を間違えたものの、無事「か○氏」宅に到着した。特徴的な傾斜のついた屋根の家を指さし、「あれです」と言うと、一同「へえ~、すごい」の声。
先生達に続いて図々しくも家に入っていくと、「ha○氏」と「サワ○ウ氏」は既に来ており、これで「か○氏」も含めて「東海四天王」が一同に会したことになった!実はこのとき「サワ○ウ氏」とは初対面であったのだ。爽やかそうな青年である。
一度お邪魔したことのある「か○氏」宅だが、驚いたのは「ネタ」をしっかりと準備していたことだ。この点で既に私とは大きく異なる展開になりそうだ。そして先生に本文にもあるように、説明をする、する。先生もさすがに「ほう、こりゃ凄いねえ」と驚くばかり。くぅー、うらやましい。
一旦食事に。テーブルを並べて先生を囲んでの昼食。これまた楽しいひととき。一応「四天王」揃い踏み、ということで写真をパチリ、とやっていたが、掲載はされていない。あの写真も欲しいところだ。
試聴が始まった。「漫遊記」本文に殆どのことは書いてあるのだが、印象に残ったことをいくつか挙げてみよう。何と言っても「か○氏」のスピーカー「小鳥ちゃん」は仕上げが素晴らしい。ユニットはD-105と同じではあるものの、私のと並べてみるとその違いはもはや「文化の違い」としか言い様の無いものだ。つまり私の仕上げがいい加減なのは、それも私の「文化」なのである。一体何を言っているのであろうか。
ヒットだったのが先生曰く「ボーボー言うCD」だ。本来リスニングルームではない「か○氏」のリヴィングは特殊な形をしているため、特定の帯域での残響音が耳につきやすい。それで試聴にかけたクインシー・ジョーンズのCDは、ちょうどその周波数が強く出ていたのであろう、かなり響いたのだ。先生はある意味それを気に入って(?)しまい、その後の訪問でも「あのボーボー言うCDは無かったんだっけ?」などとおっしゃっていた。「ツボにはまった」と言うやつだろうか。
「か○氏」宅から「サワ○ウ氏」までまた車で出発。配車は「か○氏」の車で先生御一行を、私が「ha○氏」と「サワ○ウ氏」を乗せた。ところが途中、遂に渋滞が!とは言っても、合流で混んだだけのことではあったが。一人でいればブチ切れてしまうそんなときでも、3人ならば話は弾む。普段あまりオーディオのことを話す相手がいないので、こういうときは盛り上がるものである。まあ、それ以外の、くだらないネタ振りをするのは私ではあるが…
今でも付き合いのある「か⚪︎氏」、現在に至るまで数々の小口径バックロードホーンを製作し続けており、その情熱には頭が下がります。ここで今でも印象深いのは、やっぱり「ボーボー言うCD」ですね。正体はクインシー・ジョーンズの「バック・オン・ザ・ブロック」でした。どの曲でそうなるんでしたっけ?
現在の私が住んでいる場所から近いはずの「サワ⚪︎ウ氏」家まで、どのような道筋を辿ったのかは覚えていませんが、今とは交通事情がかなり違っていたはずです。国道302号も全通していませんでした。あまり憶えていないのですが、まあまあ混んでいただろうな、と推測されます。
ロスタイムは幸い僅か、「サワ○ウ氏」のアパートに到着。そう、アパートなのである。いきなり大の男が主を含めて7人もワンルームに押しかける。これはいくら寒い日とは言え、暑苦しい。しかし、実際部屋は片づけられていて、システムの構成もシンプルだ。スピーカーは「モアイ」。ウーファー2発に、フルレンジ、スーパートゥイーター、という構成だが結構スペースファクターに優れるものである。
それにしても、このころ先生はかなりお疲れだったことと思う。自分も結構疲れていたのだ。それでも、「疲れた」とは口に出さず、この日最後まで仕事を全うしたのは流石と思わせた。そして忘れ物事件は起こった。ここでの取材のネタであった高級テーブルタップを、「か○氏」宅に忘れてしまっていたのである。さらに、「ha○氏」がポーチを同じように忘れる、というダブルで事件は起こってしまったのだ。「か○氏」が結局奥様と連絡をとって互いに車で落ち合って受け取る、という事になったが、これでやはり「か○氏」はかなり疲れてしまったようだ。
「か○氏」が取りに行っている間にも取材は続けられ、スピーカーケーブルを取り換えたりしていたが、高級タップが到着、早速使おうとするも、先生「こんなに高いもの、使うことないよ」と、つれないお返事。ありゃりゃ。「ええ~、せっかく取りに行ったのに~」という声。その声に応えて先生、「あ、そうか、じゃ使ってみようか」とあっさり変更。このやり取りは面白かった。
この部屋はロフトつきであり、そこがベッドになっている。私と「か○氏」は梯子でロフトに上って高みの見物としゃれ込んだ。本文にある、「ベッドの上のやじ馬」と言うのは私たち二人の事だ。先生がタップを使って色々試しているうちに、「か○氏」は疲れからか、うつらうつらしていた。確かに暖房が直射で暖かい。自分にとっては暑いくらいだった。
音はやはり、それまで小口径バックロードばかり聴いていたせいか、16cmを中心としたバスレフはかなり新鮮に聞こえた。それで
「いやあ、10cmより大きなユニットの音をもの凄く久しぶりに聴きましたよ、やはり『大口径』の音は違いますね」
と言うと、先生は
「ええ?そうなの?大口径?」
と、そりゃ面白いな、という顔をして答えられたのは印象的だった。先生に「ウケて」頂いたのは大変うれしいことだ。ま、事実を言っただけのことではあるけど。
そしてこの日の全日程を終了。ティアックのCDプレーヤーはまた一日、自分のところに貸してもらえることになった。撤収!えいこらせと機械を車に運び込もうと部屋から外へ出ると、学生風の女性とすれ違った。礼儀正しくも目礼を交わした彼女は別の部屋へ入っていった。「良いところに住んでいるなあ、サワ○ウは…」と思いつつ、少し得した気分で車へと向った。
当時学生だった「サワ⚪︎ウ氏」が住んでいたアパートはロフト付き、とオシャレな仕様。長岡氏設計の名作の一つ「モアイ」を聴くことが出来たのは幸いでした。一度作ろうとしたこともあるのですが、挫折しました。ユニット代だけで結構掛かりますからね…。とは言え、その後16cmフルレンジやウーファーで自作をしたり、極め付けは別に書きましたが限定ユニット「FE168ES」でバックロードを製作しました。その「大口径」が当たり前になったわけですね(笑)。

それにしても、疲れていたけど楽しい時間。色々な音も聴けて、本当に充実していた日でした。しかし、忘れていましたが、こんなにトラブルがあったんですね。後で書く自分のトラブルで吹っ飛んでしまっていたのか…。ちなみにその「高級テーブルタップ」とはCSEのもの。懐かしい名前ですね。
皆で夕食を「か○氏」の知っている店にて食することになり、二台の車はそこへ向う。その台湾料理店での食事は大変おいしかった。長岡先生を囲んでの会話も楽しかった。印象的だったのは、「か○氏」が
「なんか、本当の漫遊記みたいに3人で色々なところを廻るなんて、大変でしょう」
と言うと、
「いや、悪代官とか出て来ないから楽なもんですよ」
とのお返事。これはウケた。流石である。
前の漫遊記で食事についてかなり書かれていたので、皆かなり気を遣っていたのだが、先生は満足げであった。もっとも今回はあまり食事について触れられていなかったが。
最後に店内で写真をパチリ。他の客は一体何事か、と思ったことだろう。楽しい時間はどうやら終わりになりそうで、いやあ、いい日だったと外へ出ると、さらに我々(特に私)を待ち受けていた、とんでもない事態とは!
…我が愛車エクシヴのテールランプが煌々と輝いているのを見た私は思わず走りだしていた。当然フロントもバッチリ点いている。キーを回したがいやな音を立てるばかりでエンジンは作動しない。屋外で大変寒い日だったにも関わらず、あの時は冷や汗をかいたはずだ。
「その音は、上がっちゃったね?」
とカメラマン「生○氏」の声。私は力なく頷いた。やってしまった。何もこんなときに…昔々、デート(おお、いい響きだ!)の待ち合わせの時間が迫っているときにキーの閉じ込みをしてしまったことを思い出した。ブースターケーブル…あれは以前使い物にならなくなったことが分かって捨ててしまっていた。何せ長岡先生がいらっしゃるのだ。先に行ってもらおうと思ったが、「炭○氏」と「生○氏」が私と一緒に近くのガソリンスタンドへケーブルを借りに行こう、ということになった。有り難いことである。
果たしてスタンドでは、「ケーブルはありますが、貸すことは出来ません」という鬼のような返事。そういう規則なのか。以前タイヤがいきなりバーストしたとき、近くのスタンドへガタガタ言わせながら「タイヤ交換したいからレンチ貸して」と言ったら、「外に持ちだすことはいけないし、我々が手伝うことも本当は駄目なんですが…」などと言いながらこっそり手伝ってくれたことがあった。スタンドとはそう言うものらしい。いくらか置いてもらえれば、と言われたが皆手ぶらだった。とは言え、今更JAFを呼んでいたら夜が明けてしまう。
「じゃ、おれがここにその間いれば文句無いでしょう」
と言ってくれたのは「生○氏」だった。結局そういうことになり、大変申し訳ないと思いながら「生○氏」を言わば人質にしてケーブルを借りた。
「か○氏」の車から繋いで、エンジンをかけるとすぐにエクシヴ復活。心底ほっとした。いや、しかし本当に恥ずかしい事件だったが、人質になってくれた「生○氏」には改めてここでお礼を何度でも言いたいと思う。
この料理店がどこだったのか、憶えていないんですよね~。美味しかったです。そして私のトラブル、バッテリーあげてしまいました…。本文にもありますが、その時のカメラマン「生⚪︎氏」には本当に感謝してもしきれない程です。ブースターケーブルは捨てたらすぐに買い直すべきですね。オーディオケーブルはいくつも買いまくっていたのに…。
復活した車の中、「ha○氏」と「サワ○ウ氏」を乗せて名古屋駅へ向った。その車中、私と「サワ○ウ氏」は「ha○氏」から翌日家に来ないか、との誘いを受けた。翌日は「デジビ」に登場する「ha○氏」の番である。私も「サワ○ウ氏」もその誘いに乗ることにした。何せ、長岡先生と翌日も過ごすことが出来るのである。月曜日から仕事のスケジュールは正直言って忙しいものだったが、構うものか。幸福な時間を明日も、得られるのだ。こんな素晴らしいことがあろうか。車の無い「サワ○ウ氏」を乗せていくため、時間を決めて2人を駅で降し、一旦「最高の土曜日」は終わることになる。
家に戻り、またなかなか重いVRDS-25XSを運び込み、部屋に入った。静まり返った部屋は、午前中に起こった興奮の余韻を残しているかのようだった。電源プラグを固定するために使ったボール紙の切れ端とハサミが無造作に床に落ちていた。普段ならば目立たないがそれらは、片づけられた部屋の中で強烈にこの日の出来事を象徴していたようにすら感じられたのだ。
そう、間違いなく長岡鉄男先生はこの部屋にいたのである。それだけが確かなことだ。
実際には、本当に月曜から大変忙しい週という予定だったので内心結構迷ったことを憶えています。しかし、迷っている場合ではないですよね。「デジビ」というのは、当時「オーディオベーシック」と同じ共同通信社から発行されていたオーディオ・ビジュアルの雑誌です。それにしても、がらんとした部屋、片付けられていたのと相まって妙な寂寥感がありましたね。ああ、色々あったこの日が終わっちゃったなあ、という。もちろん、その後部屋はあっという間に元に戻るわけですが。今の部屋もいい加減、もうちょっと片付けないとまずいですわ。写真も撮れない。
さて、そんなわけで次回は日曜日、「漫遊記二日目編」となります。「最高な二日間」はまだ少し、続きますね。



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