前回に引き続いて、「オーディオベーシック」誌の記事で長岡先生が我が家を訪問した時の「顛末記」を自分のホームページから転載します。前回まだ音を出していませんでしたね。今回ようやく音出しが始まります。それでは…
取りあえずセレクタをつけた状態での試聴。これは本文の通りである。まず聴いたのは自分のディスクで、UA「ターボ」。先生はしばらく聴くとすぐに「はい、分かりました、次何か無いですか」とおっしゃって、あまり何も考えていなかった私は少々焦りながら、綾戸智絵、ローリン・ヒルといった、いつもサウンドチェック的に使っているディスクを続けざまにかけた。
「こんなに小さな音でいつも聴いてるの?」
ひと通りかけ終わると先生はそう口を開いた。私は少々痛いところを突かれたように絶句した。自分があまり大きな音で普段聴いていないことを自覚していたし、この日は音量を上げようとも思ったのだが、ありのままで聴いてもらおうとも考えた末、「少しいつもより大きめ」というヴォリューム位置になっていたのだ。やはりこの程度ではそうか。
「もう少し大きな音で聴こうよ。聞こえなかった音が聞こえてくるんだから」
そして先生は、持っていた紙袋の中から無造作に御自分の「長岡ディスク」を何枚かかけて、試していた。長岡先生の試聴の仕方は興味深い。本当にサウンドチェックという感じで、聴きたい部分だけを聴いて、すぐに次のディスクに替える。流れるような作業だ。そしてやはり登場、宇多田ヒカル。
「あ、それは持ってますよ」と言うと、「そうだよね、何せ750万枚だもんね。みんな持ってるね。」と先生、またにっこり。チェックに使う曲は「オートマティック」と、「インタルード」だ。特に後者は色々な音が入っていて、チェックにはうってつけらしい。ただ、私のシステムの音がこうしたチェックの結果どうなのか、ということはおっしゃらなかったので、それが少々不安にさせた。
「さあ、それじゃこのセレクタを外して聴いてみましょうか」ということで、本文写真にもある通り、アンプの後ろに手を回してケーブルの付け替えをした。この作業は結構頭に血が上ってつらいものがあるのだが、今回はさらに疲れた。それは写真撮影のためである。当然写真を写すときには動きを停止しなければならない。つまり、写真の私はアンプの後ろに手を伸ばしたまましばらく静止状態だったのだ。「ハイ、そこで止まって!」なんて感じで。苦しかった…もう少しで腕がつるところだった。モデルという仕事は大変なのだな?
そして長岡先生はコンセント部分に注目していた。おもむろにプラグを掴み、「グラグラだねえ、これは。しかも勿体無いよ、変換アダプターは」とおっしゃった。キャメロット・テクノロジーの電源ケーブルのプラグは3Pであり、当時はまだコンセントをホスピタルに換えていなかったので「3P⇒2P変換プラグ」を使って接続していたわけだ。ちなみに本文にはテーブルタップをキャメロットで…とあるが、本当はキャメロットはアンプからダイレクトに繋いでいる。テーブルタップが2Pプラグなのだ。
「こんなに小さな音で…」とおっしゃる声とその時の表情(少しいたずらっぽい笑みを浮かべていました)を今でも鮮明に思い出します。焦ってしまって、綾戸智絵のCDは本当は2曲目をお聞かせしたかったのが1曲目のままになっていたような、そんな記憶もあります。当時、宇多田ヒカルの「First Love」がちょうど大流行でしたね。長岡先生の推薦でさらに販売枚数が増えた?それにしても、チェックされるポイントの多いこと。そう言えば「漫遊記はオーディオチェックの企画じゃないんだけど、ついこうなっちゃうね」みたいな事もおっしゃっていたような。ありがたかったですけどね。
話を戻そう。本文にある通りだが、ダイレクトに接続するべく、キャメロットのプラグをばらし、3番ピンを外そうとした。「炭○氏」は「いいですか?やっちゃって」と少し心配していたが、自分に異論はなかった。色々面白そうだったからだ。ただ「炭○氏」は別の心配もしていた。キャメロットの輸入商社に文句を言われないか、という。結局掲載されたということは問題はなかったということか、それとも「イケイケ」だったのか。
ピンは結局抜けなかったので例の消しゴムを使った対策。ただ、ここで困ったのは「消しゴムはないか」と訊かれたことだった。つまり、掃除をして、必要のないものは全て押し入れに文字通り押し込んだため、あったはずの消しゴムを探すのに苦労してしまったのだ。時間のロスと共に、先生をイライラさせやしないか、と1月の寒い日だというのに冷や汗が一筋気味悪く背中を伝った。さらにプラグのピンを拭くのでアルコールはないか、と言われてまたまた大慌て。「確かカセットデッキのクリーニング液があったはず…」と、探しまくったのだが、焦りもあって見つからなかった。後であっさり出てくるのだが…まあ、そんなものである。「マーフィーの法則」というのは本当に腹立たしい。
さて、消しゴムをガムテープでぐるぐるに巻く。ガムテープは試聴用に前日届いていたCDプレーヤーの段ボール箱に巻かれていたものを再利用(これは「炭○氏」のアイデア)した。これで安定感バッチリ。見栄えは…なかなか凄いものがあるが。コンセントを交換しようと強く思ったわけである。
さて試聴。なるほど、ダイナミックな感じになってきた。ただ思ったほど変わったわけではない。本文にもある通り、やはり音量だろうか。ヴォリュームを10時半くらいの位置にして鳴らすと、確かに伝わってくるものが違うのだ。今は家族も出掛けているので家の中は問題なし。
「ちょっと外へ行ってくるよ」と、先生は家から出ていき、しばらくすると戻ってきて、「うん、外は全然聞こえないよ。これならもっとヴォリュームを上げても大丈夫だね」とおっしゃった。確かに新しい家は外への音漏れは少ないのだろう。昔の家はいくら戸をしっかり閉めてもかなり音が漏れていた。それでいつの間にか気にしてヴォリュームを絞るようになっていたのだろう。そのくせはまだ続いていた。
しかし、どちらかと言えば問題は家の中である。特に妹が隣の部屋にいる状態は大変つらいものがある。土・日は向こうが仕事なので助かっているが、部屋の中で音楽を聴いているといつの間にか帰っていて、後で「うるさかった」と言われることが多いのだ。…にしても何故後で嫌みっぽく言うのかな、全く。音漏れ対策は思案の種だったりするのだった。

この日、両親と妹はそれぞれ「いても邪魔だろうから」と用事を作って出掛けていたのでした。「外もそうなんですけど、家族の方にも音がうるさいと言われていて」と言うと長岡先生は「それはまあ、家族内の事はうまくやって下さいよ」と笑いながらおっしゃっていたことを、今思い出しました。結局その後、16cmのバックロードなんて作ったものだからさらにうるさくなったわけで…。うまくやれていたか?と言われると、うーむ。
まあ、確かにウォークマンからシャカシャカ漏れる音は耳障りだわな、同じことだよな、これからは遮音に励むことにするよ、と、それはともかく、しばし音量をあげての試聴をした。そして、次は前日に持ち込んだCDプレーヤーの試聴である。20万円台の両横綱、デンオンS10Ⅲ、ティアック25XSの両機である。これは楽しみであった。我が愛機CDX−10000は定価は40万円だが、何せ13年前のもの。劣化もしているに違いないし、当時よりテクノロジーも進歩している。最新の機械はどうなのか?という興味が大変あったわけなのだ。
あらかじめ電気を入れ、CDを回してウォーミングアップをしていた両機のうち、まずデンオンの方をセットする。10000と比べるとかなり軽いが、これは10000が重すぎるのだ。試聴には先程まで聴いていたローリン・ヒルを使った。さてプレイ。…思ったほどの違いはない。しかし、迫力の点で10000の方に分があるかな、と感じた。正直に「10000の方が良いですね」と言うと、「そうだね、結構これも3代目になって音がかなり変わったんだよね」と先生はおっしゃる。「温かみが出てきたんだ」。なるほど、それを自分は「物足りない」と感じたんだろう。やはり10000のシャープな音が好きなのだ。
「さて、時間もなくなっているし、次のをセットしようか」ということで、ティアックをセットする。これは結構重い。インシュレーターをまず置いてからセットするので簡単には行かない。「炭○氏」の力を借りてセットして、またローリンをスタンバイした。…ところが、鳴らない。「????」読み込まないのだ。先生も「もう散々使い回しているからダメなんじゃないか」と不安なことを言う。私が「これは輸入盤だから読みにくいだけなのかもしれません」と言って、UAをかけてみると、見事に読み込んだ。しかし、同じ曲で比較試聴できないのが残念。先生も「うーん、これは残念だ、同じもので比べたいなあ」。何度かチャレンジしてみたが、結局ローリンはかからず。UAや綾戸智絵で聴いてみたが、これは良かった。シャープな、自分の好きな音で、透明感は10000を上回っているのではないか。パワーで10000といった感じか。
「これは良いですね、好きな音です」と言うと、先生は頷いていた。「さっきのデンオンはちょっと硬かったような…」という感想には「いや、むしろ柔らかい音じゃないかな」と言うお返事だった。自分の「硬い」「柔らかい」という認識が少し違ったかな、と思った。「自分にとってリアリティが無い」と言うのが「硬い」と言う表現だったのだが、普通は確かに違うものだ。つまり「硬い」音が実際には好きなのである。もう時間がなかったためでもあろうが、この辺は少し掲載された本文とは違ってくる。先生の中では私は「ソフトな音が好き」なタイプになっているのだ。まあ、確かに「シャープ&ダイナミック」の元祖である長岡先生の前では、この音はソフト、と言われても当然のことかも。そう言えば、ずいぶんハイ落ちの気もするし。自分の考える「シャープ」とはやはり一般的には違うのかもしれない。
「コストパフォーマンスではデンオンでも10万円のやつの方が断然良いよ。追いついちゃった、って感じだね」とおっしゃりながらも至福の時はそろそろ終わりを告げようとしていた。

結局、「CDX-10000」は動かなくなるまで使いました。その後中古でエソテリックの「X-1」を経て「VRDS-25XS」を手に入れます。今の私の好みの音は、「柔らかい」のかもしれません。しなやか、と言った方が良いかもしれないですね。「水」を感じさせる音と言いましょうか。よく「微粒子のような」と言う形容がありますが、どれだけ細かくても「粉」じゃ不満足なんですよね。「流体」であって欲しいです。この時デンオンのプレーヤーから感じたのは大袈裟に言えば「粉っぽさ」だったんじゃなかろうか、と思ったりします。ただ、中低域はゴリっと硬めの方がやっぱり好きかなあ。中高域は少し甘みを加えたマイルドだけど艶やかな質感が欲しいですね。何だかコーヒーの話みたくなって来ました。
どんな風に終わったのか、はっきり言ってその辺の記憶は曖昧だ。先生が「よし、じゃあこの辺で」とおっしゃったのか、「炭○氏」が号令をかけたのか…とにかく「撤収!」である。CDプレーヤー2台を片づけていると、私の携帯電話がいきなり(そりゃいきなりに決まっているが)、音楽が鳴り止んで耳鳴りがするくらいの静寂を破った。「誰だ、この忙しい時に…」と、よく電話をかけてくる友人Hの顔を思い浮かべながら携帯の画面を見ると「か○氏」であった。
「はいはーい、hideです」
「あ、hideさん?どお?」
「ええ、ちょうど今終わったところっス。あと…45分位でそっちに行けますわ」
本文にもあるが、終わったら私の車で「か○氏」宅まで先生御一行をお送りすることになっていたのだ。
と、言うわけでえっさほいさとプレーヤーを車に運び込んだ。ちょっと時間が予定をオーバーしていたのでバッタバッタと急ぎながら、「ま、時間通りに終わることなんて無いよ」という先生のお言葉を聴きつつ。…ここで何か落としてしまうといったハプニングでもあるとシャレにはならないがネタにはなるということなのだが当然何事もなく、準備完了。部屋の外に用意しておいたお茶とお菓子を横目で睨みながら階段を下りた。結局出せず仕舞だったなあ…まあ、時間がなかったから仕方ないな。
さて外に出て車に乗る前に顔写真撮影。しかし最初は澄ました顔になってしまい、カメラマン「生○氏」に「もっとリラックスしてよ」と、なにやらギャグを言ったのだろうか?破顔一笑した一瞬を流石プロのカメラマンは逃さなかった。それが掲載された「見たことの無いさわやかな笑顔」である。いや、自分ではそんなつもりはないのだが、何故かそういう評判だ。うーむ。それは今一つ納得がいかないが。
そして出発。とは言っても2度ばかりバタバタと忘れ物を取りに行ったような気がしたが。何だったのかは忘却の彼方。しかし、そうして一度は50メートルくらい発車させたのに、「あっ!」と引き返したのは家の鍵をかけ忘れたのを思い出したからだ。やはり舞い上がりはまだまだ続いていたのだろう。いつものことだろうそれは、と言う声も少なからず聞こえるが。
「うん、まずはうまく行ったね」と私の後ろの席で先生は機嫌が良さそうで、ホッとした。そして前日食したという名古屋名物「ひつまぶし」の話題が出た。うな丼のようなものだが、お茶漬けのように出し汁をぶっ掛けて食する、というものだ。「あれは本当にああやって食べるものなの?」「ええ、でも僕らも普段食べることはないですからねえ、一度だけだからよく分かんなかったですね」と、ライトな話をしつつ、工事に巻き込まれた。
「か○氏」の家まではいろいろなルートがあるが、どの道にしても当時かなり工事が行われていた。それを回避しようとして結局そうなってしまった。これで大渋滞でもしたら、次の「か○氏」はともかく、「サワ○ウ氏」の取材は出来なくなってしまうかもしれない。焦った。またまた冷や汗が伝わったが、意外とあっけなく混雑は解消し、たいしたロスにはならなかった。ふう。
車中ではオーディオ以外でも長岡先生の見識が伺われて面白かった。特に「スポーツってのは実際は体に悪いんじゃないかってね」という言葉が耳に残っている。どういう会話の流れでそうおっしゃったのか。思い出せないが、先生らしい逸話ではなかろうか。
あっという間の時間でした。今だったらコーヒーをドリップしてお出しすることが出来ただろうか…いや、そんな時間は絶対に無かったでしょうね。時々「玄関の鍵閉めたっけ」となりますが、それは年齢のせいではないですね。若い頃から変わっていなかった事がここから分かりました。
「スポーツは体に悪い」というのは確かにそうなんですよね。入り込めば入り込むほど、ある程度「体を虐めざるを得なくなる」わけですから。プロスポーツ選手が怪我で引退したり、プロレスラーが引退後足を引き摺って歩いているのを見ても、その思いを強くします。何事も適度が一番。まさに長岡氏が提唱する「いい加減」になるわけですね。
さて今回はこの辺で。私の自宅(実家)への訪問は終了ではありますが、まだまだ続きます。



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